電力の安定供給の一端を担う
材料科学研究部門
茂山 治久
博士:9Cr鋼のクリープ損傷挙動・クリープき裂進展寿命予測に関する研究
- 9Cr鋼のクリープひずみ式およびクリープ損傷評価法の開発
- 9Cr鋼高温再熱蒸気配管のクリープ損傷解析
- ガスタービン用Ni基超合金の微視組織観察によるクリープ余寿命評価に関する研究
研究の内容
ボイラーの余寿命を解き明かす
高温・高圧の過酷な条件で運転されているため、配管の溶接部から蒸気が漏れるトラブルが起こる火力発電所のボイラー。その配管の材料として使われているのが、私の研究する9Cr鋼です。発電所の高温機器の余寿命評価や保守管理に役立ててもらうため、9Cr鋼に高温で一定の荷重を与え続けるクリープ試験を行い、得られたデータをもとに寿命評価法を開発しています。一般的に、配管を含む高温機器は10万時間を設計寿命として製作されています。しかし、設計段階で10万時間の材料強度を正確に予測することは難しく、発電所で長時間使用していると予期し得ない事象が発生し、トラブルの要因になることもあります。そうした未知の事象に対する原因究明や解決法の提案も研究の対象となります。
入所後の様子
報告書・論文を一つひとつ読み込む
9Cr鋼の研究には大学の博士課程から取り組んでいました。電中研を選んだのも、大学で学んだ知識がそのまま活かせるからです。ただ入所直後は、苦労しました。ひとつには、大学と違って複数の研究題目を担当しなければならないからです。加えて各研究題目はそれぞれ数年前から継続されているものがほとんど。これまでの研究内容・成果、他の題目との関連性、今後の課題点等を踏まえて、その中で自分がやるべきこと等を把握することは簡単ではありませんでした。幸い、所内ではどのような報告書が出されているか、どのような研究発表がなされているかを調べることができましたので、報告書・論文を一つひとつ読み込み、また時には先輩や上司に教えを乞うことで解決できました。
研究のやりがい
世界の研究者と交流しながら
火力発電プラントの破損は、一つ間違えれば人命にも関わり、また場合によっては大規模停電を引き起こし、社会的・経済的に大きな損失につながります。9Cr鋼等構造材料の強度、健全性評価という研究を通して電力の安定供給の一端を担っていることに、誇りとやりがいを感じながら研究に取り組んでいます。さらに、当所は電力の中央研究機関であるため、他機関の研究者との交流が多いのも魅力の一つです。電力会社はもちろんのこと、大学やメーカー、世界中の研究機関と共同研究や情報交換を実施しており、当所の研究成果をアピールするための学会活動も積極的に行うことができます。先日もカナダで開催された圧力容器をテーマとする国際会議に参加し、現地では9Cr鋼に関する共同研究をしている米国電力研究所(EPRI)のメンバーと打ち合わせをして実施してきました。
今後の目標
いろいろな材料に精通する
これまでは火力発電所で使用される9Cr鋼を専門としてきましたが、電力関連機器には、使用される環境や求められる特性によって多種多様な材料が使用されているため、数多くの材料に関われるのも電中研ならではです。実際にNi基超合金やアルミ合金といった鉄鋼以外の材料に関しても、現在研究に取り組んでいます。また電中研だから得られる情報、電中研でしかできない研究というのも少なからずあります。これらの研究を通して専門性をより深めていき、幅広い材料、様々な材料問題に対する解決策を提供できる材料強度のエキスパートを目指します。
- 火力発電用ボイラ配管、チューブのクリープおよびクリープ疲労寿命評価に関する研究
- 火力発電用ガスタービン動翼のクリープ疲労寿命評価に関する研究
- 金属キャスクバスケット用アルミニウム合金の長時間強度に関する研究